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田村日記

(6) 2014年 秋冬の巻

14/09/01 UP

● 2014年12月30日(火)

【愛猫逝く】
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15年以上、一緒に暮らしてきた猫のギザ(雌)が20日未明に逝ってしまいました。私にとっては、なくてはならない家族の一員でしたので、大きな喪失感に包まれています。寂しい年末となりました。

ギザは、おっとりした性格でした。私の中で、辛いことや苦しいことがあったときでも、ぼわんとした顔でいつものんびしていて、本当によく助けてもらいました。ぼんやりしたところがあるので、日頃から「ギザはきっと、太ったまま、急に死んじゃうね」と話していたのですが、本当にそうなってしまいました。12月の中頃からご飯を食べなくなって、寒いからかな?なんて思いながら、獣医さんへ連れていったら、腎不全とのことでした。すぐには死んでしまうこともない、という診断だったのですが、その日は大きなショックを受けました。そしてその2日後には亡くなってしまいました。

最期は息が荒くなり、私も動揺して、大きな声で泣いてしまいました。するとギザがびっくりしたような顔でこちらを見ていました。「ギザ、ありがとうね」と言うと、ギザギザのしっぽをプンプンと振ってくれました。何度も何度も、「ありがとう」を言いました。ギザも声を張って鳴いて、最期は私の腕のなかで、すーっと息をひきとりました。ああ、今、ギザの魂が身体を離れていったのだな、と感じました。

かなりとぼけた性格の猫でしたが、最期はしっかりとお話ができたような気がします。地上で病気をしながら苦しむよりも、天国でほっこり暮らしてくれているほうがいいな、と頭では思うのですが、あのフカフカしたギザの身体に触ったり、一緒に遊んだりできないのは本当に寂しいです。

いつかお別れのときがやってくることはわかっていました。でも、もうちょっと一緒にいたかったなと思います。また次に生まれてきたときも、ギザと一緒に暮らしたいです。私もギザのように、みんなをほっこりさせるように生き、そして潔く死ねたらいいなーと思います。

ギザのことを考えると眠れなくなる夜もあり、久しぶりに俳句をよみました。

猫逝いて重み欠けたる蒲団かな

● 2014年12月3日(水)

【池澤夏樹個人編集『日本文学全集』シンポジウム】
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今年の夏に情報・知識辞典サイト「イミダス」に原稿を書かせていただいたきました(「歌舞伎の花魁の櫛は何でできているか? ~伝統芸能を支える仕事」)。その際に担当いただいた編集者の方がとても素晴らしい方で、いろいろなやりとりの中で楽しい雑談もたくさんしてくださいます。「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」が刊行されること、そのなかに民俗学をテーマにした巻があることも教えていただき、「民俗学と文学は隣接している、という捉え方をしているそうで、池澤夏樹による解題などに非常に興味をもっています」とメールでお知らせくださったのでした。

第14巻 南方熊楠、柳田國男、折口信夫、宮本常一(2015年4月刊行予定)

全集のパンフレットには「民俗学は文学のすぐそばにいる。ではそこまで文学の領域としてしまおう。実際の話、境界はないのだ。」と書かれてあります。これを読むだけでも、ワクワクします。それから、第10巻も気になるラインナップで、義経千本桜をいしいしんじさん、曽根崎心中をいとうせいこうさんが訳されます(2016年10月刊行予定)。古典を訳すメンバーがなかなか興味深くて、パンフレットを見ているだけで、楽しくなります。

「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」の詳細
http://www.kawade.co.jp/nihon_bungaku_zenshu/

いろいろ興味が湧いて情報収集をしていたら、池澤夏樹さんも登場されるシンポジウムが行われることを知りました。事前申し込み不要で、入場無料。会場は早稲田大学でした。時間をやりくりして、なんとか出かけてきたのですが、これが非常に面白かったです。このところ、こうした無料だけど良質なセミナーやシンポジウムが多くて、本当にありがたいなーと感じます。

新しい文学全集をめぐって
「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」刊行開始記念シンポジウム
第1部「古典文学を訳すということ」 伊藤比呂美×酒井順子×中島京子
第2部「古事記から始まる新しい日本文学全集」 池澤夏樹×堀江敏幸

第一部は、古典の新訳に取り組んでいる3人の女性による鼎談でした。古典を訳している最中の悩みなど、なかなかおもしろい生の声を聞くことができました。エッセイストの酒井順子さんは「枕草子」を訳されているそうですが、清少納言をとりまく雰囲気が女子校っぽくて、その女子校感を出すために「です・ます調」で訳していると言われていました。3人の方が盛り上がっておられたのは、会話文の敬語をどう訳すか?ということでした。これはみなさんすごく悩まれていたようでした。それからこの前、池澤夏樹さんが訳された「古事記」が第一回目として刊行されたのですが、それを読んで「もっと訳す人の自分が出ていいんだ」と3人とも思われたようでした。

「説教節」を訳されている伊藤比呂美さんは、古典には決まり文句が多い、それをブロック(積み木)のようにして遊んでいる感じがする、と言われているのも興味深かったです。確かに、能や歌舞伎でも、なにやら難しい言葉の塊としての「決まり文句」が多くて、最初は意味不明ですが、それを覚えてしまえば、だいたい形が見えてくるようになります。

第二部の池澤夏樹さんと堀江敏幸さんの対談がこれまたおもしろかったです。堀江さんが池澤さんに「どういう視点で、訳す人を選んだのか」と質問されたのですが、「文体」をみてわりふったと言われていました。元の作品と訳す人のなかにあるOSがうまくマッチングすると、いいものになると。堀江さんが、脚注について熱く語っておられたのも楽しかったです。この全集には古典作品も多いのですが、古典を楽しむ人が増えると、歌舞伎や能に興味をもつ人も増えるかもしれませんね。

これは内容とは関わりがありませんが、こういう生の声を聞く機会というのは、本当に貴重だなと思いました。今は、ネットという便利なものがありますが、やはり自分の身体を動かして、場所を移動して、生きている人間の言葉をリアルタイムできくというのは、すごくエキサイティングです。これからも、たくさん出かけたいなと改めて感じました。Twitterなどにいい情報が流れていることも多いような気がします。みなさんもぜひアンテナをはって、でかけてみてください!

● 2014年11月20日(木)

【学会誌への寄稿】
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今年の8月に正式に執筆依頼を受けて書いていた学会誌への寄稿文ですが、お陰様でなんとか提出できました。歌舞伎の櫛とかんざしの復元について書いたのですが、理系の学会誌ということもあり、素材や加工技術などについて改めて鯖江の眼鏡加工会社さんに取材をしました。それと合わせて、眼鏡の素材の特色などについても教えていただきましたが、すごくおもしろかったです。

執筆を依頼してくださった先生(機械工学の表面加工がご専門)や環境保全の専門家、道具ラボの幹事にも事前に読んでもらい、それぞれから貴重なアドバイスをいただき、推敲を重ねました。うまく審議を通過すれば来年4月に発行になります。結構プレッシャーを抱えて書いていたので、提出をしてほっとしています。

以前、執筆を依頼してくださった先生が世話役(?)をされている研究会で、私も発表をさせていただいたのですが(歌舞伎の櫛の復元について)、その内容に触発を受けて今回執筆を依頼してくださったとのこと。ちなみにそのときその先生も発表をされたのですが、これが難しすぎて、全然理解できませんでした・・・(たぶん表面加工についての内容)。全く異なる分野なのに、どうしてこんなに興味をもってくださるのか、わかるようなわからないような(笑)。原稿の内容についても「伝統技術が消えていく際の職人の心理」あたりも知りたいので詳しく書いて欲しいなど、意外なアドバイスがありました。大事な技術を未来に伝えていきたい、という理念は一緒なんでしょうね。

私にとっては、改めて鯖江の加工会社からいろんな話を聞くことができ、また立派な学会誌に書かせていただく機会を得て大変勉強になりました。

● 2014年11月15日(土)

【「グラフィケーション」という広報誌】
時代劇
富士ゼロックス株式会社が隔月で発行している「グラフィケーション」という広報誌があります。Webから申し込めば無料で送付してくれるもので、いつごろからか忘れましたが送っていただいています。これがなかなか骨太の企画が多く、非常に読み応えがあります。先日届いた2014年11月号(195号)の特集テーマは、時代劇の愉しみ。時代劇に寄せる想いと題して、劇作家・演出家の福田善之氏と文芸・文化批評家の高橋敏夫氏が対談されていました。そのなかで、時代劇における役者の身体性について興味深い発言があったので、以下に抜粋してご紹介します。

高橋 役者の身体の連続性が絶たれたということは、わたしたちの暮らす場の連続性が絶たれたことに重なりますね。五十年代から六十年代というのは高度経済成長期で、この高度経済成長期について実に興味深い捉え方があって、高度経済成長以前に二千年の列島の風景があり、以後は数十年しかないと。そういう大転換が社会にあって、中で生きていると気づかないのだけど、ときにその転換に、断絶に気づかされる。役者の身体の断絶も、風景の断絶も、従来の時代劇からすればもう決定的なのでしょうね。一九六○年代の終わり頃にはもう、時代劇のロケの場所もなくなりましたね。

この発言は、時代劇だけに限ったことではなく、ものを作る職人、芸能者全般についても同様のことが言えるような気がします。今という時期は、高度経済成長期以後にかろうじて身体や心のなかに大切なものを残してきてくれた人たちが、この世を去りはじめている、そういうときなのだと思います。その危機感が、私の中に強くあります。

グラフィケーション
http://www.fujixerox.co.jp/company/public/graphication/

● 2014年11月13日(木)

【舞台フォーラム2014】
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日生劇場が開催している「舞台フォーラム2014」に参加してきました。「舞台フォーラム」は、舞台芸術の製作の裏側に興味のある人にはすごくありがたい企画で、なんと無料。
演出家、舞台美術、照明、音響、衣裳、振付の方などが登壇されて、映像や画像、実際の舞台装置を使って詳しく解説をしてくれます。最後は参加者全員が実際に舞台上にあがることができ、大道具や衣裳などを見学しました。

なかでも興味深かったのは、音響。ワイヤレスマイクの使い方について実際にデモをしながら見せてくれたのですが、すごく興味深かったです。それから照明のお話もおもしろかったです。また、舞台の仕込みの様子を24時間分撮影して、その映像を超早送りで見せてもらったのですが、これもすごくおもしろかったです。たぶん来年も開催されます。事前申し込み不要で無料なので、ご興味のある方には、とてもおすすめです。

日生劇場さんは、舞台芸術を支える裏方さんに「バックステージ賞」を贈るなど、とてもいい取り組みを続けておられます。写真撮影も可能でしたので、少し写真もご紹介します。今回はオペラ「アイナダマール」を題材にされていました。衣裳やオーケストラピットも間近で見ることができました。

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写真

舞台フォーラム2014
http://bit.ly/11mKlQw

● 2014年11月4日(火)

【無形文化についての講演会】
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みんぱく(国立民族学博物館)の公開講演会「無形文化遺産 選ぶ視点 選ばれる現実」に行ってきました。事前申し込み制で、なんと無料。約2時間でしたがコンパクトにいろんなメニューがあって、楽しめましたし、なにより勉強になりました。観客を飽きさせないようにしたい、という意識がすごく感じられてそのあたりも好感がもてました。講演会の後は、講演でお話になった先生方がロビーに立たれて、個別で質問にこたえてくださるようになっていて、それもよかったです。

無形文化遺産について、定義のあたりから丁寧に説明があり、単なる事例紹介ではなく、政策や制度という視点からお話があり、私にとっては本当に勉強になる時間でした。余談ですが会場の日経ホールは、各座席にいいテーブルがついていて快適でした(収納式ですがA4をしっかり置けるサイズ)。そして資料が入っていたみんぱくの紙袋がかわいかったです。

公開講演会「無形文化遺産 選ぶ視点 選ばれる現実」
http://www.minpaku.ac.jp/research/activity/news/alp/141104

● 2014年10月11日(土)

【文楽】
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歌舞伎座で上演中の『寺子屋』と文楽の『菅原伝授手習鑑 寺入りの段 寺子屋の段』を2日連続で拝見してきました。歌舞伎のほうは義太夫の三味線弾きの方とご一緒したのですが、すごくおもしろかったです。歌舞伎の義太夫は「竹本」と呼ばれますが、三味線の駒が文楽よりも軽いそうです。もちろん音色も変わる。2日連続で聴き比べると、それがよくわかりました。同じ演目を見比べるというのも、なかなか興味深かったです。松王、千代、源蔵、戸浪の居所も違いますし、人間と人形の差による演出の違いなども、楽しく拝見しました。

写真は、文楽公演のロビーの撮影コーナーにて、髪型にぐっと寄って撮影したものです(クリックすると拡大できます)。まげの上に橋がかけてあるのは富貴の象徴(ちょっと見えにくいですが)。歌舞伎の髪と同じところあり、違うところあり。このへんもおもしろいです。

後日譚:太棹の三味線の駒の重い、軽いは判断できるようになるまで何年もかかるとのこと。とても微妙らしく、きっと私は聴きわけられていなかったのですが、頭の情報でそう聴こえたのだと思います〜。でも、そういうことを知っておくと、義太夫を聴くのが面白くなりますね。

● 2014年10月8日(水)

【取材の醍醐味】
かご

昔取材をさせていただいた歌舞伎の裏方さんとお会いしてきました。それで、取材のときの話になったのですが、「田村さんって、わたがし製造器みたいな感じだった」と不思議なコメントをされました。

取材する前に、話しをさせる雰囲気をつくっていた、ということを言いたかったらしいのですが、わたがしを作るときに、ザラメを入れてしばらくすると、周辺にホワホワと綿ができてくる。取材前がそういう状態。それで、取材中にはわーっとお話しちゃって、それを棒ですくいとるとわたがしができる、と。なんか、おもしろい例えで、大笑いしてしまいました。でも、たぶん、遠回しにほめてくださってたような気がしてうれしかったです。

写真は、全然関係ないネタですが、うちにある籐の籠です。随分むかしに、仕事仲間のカメラマンさんから「撮影用に買ったけど、いらないのであげるー」と送られてきたのです。2ついただいたので、1つはお風呂場に置いて、洗濯物入れに。もう1つは、寝室に置いて乱箱的に使っています。だんだん色も落ち着いてきて、気に入っています。

● 2014年10月2日(木)

【民俗学】
武蔵美
今日は、復元中の道具(歌舞伎)を学術的に位置づけるため、民俗学の研究者に会いに武蔵野美術大学に行ってきました。武蔵美には「民俗資料室」なる施設があります。そこにはおびただしい数の民俗資料があるのですが、これは「旅する巨人」として知られた民俗学者の宮本常一(1907-1981)のコレクションが基盤となっていて、日本屈指の生活造形資料といわれています。

武蔵美にも、民俗資料室にもご縁がなかったのですが、文化人類学者の川田順造さんがこちらをご紹介くださいました。いろいろお話もうかがうことができただけでもありがたいのですが、収蔵庫の中にも入れていただき、お目当てのアイテムについていろいろ調べてきました。残念ながら、知りたいことの答えをみつけることはできませんでしたが、資料を沢山いただきましたし、道具を研究していく上での体系的な考え方なども教えていただき、とても勉強になりました。
やるべきこと、やりたいことがいっぱいありますねー。

武蔵美は、JR国分寺駅からバスに乗ってしばらく行ったところにあるのですが、こぢんまりとしていてとてもいい雰囲気でした。歌舞伎座の大道具さんのなかにも武蔵美のご出身の方がいらしたので、行く前にいろいろ昔話などもうかがっていました。今は、素敵なベーカリー・カフェがあったり、高層ビルもあったりとかつての姿とは違うところもあるようでした。民俗学の先生がとてもいい方で、ときどき授業をのぞかせていただくことにもなりました。宮本常一の世界にも以前から興味を持っていたので、若者に混じって、ときどき勉強したいと思っています。

武蔵野美術大学 民俗資料室
http://www.musabi.ac.jp/folkart/about/index.html

● 2014年9月27日(金)

【職人さんの奮闘】
FaceBook社
今日は、facebook Japan株式会社さんの社内イベントに参加させていただきました。働く人のご家族を会社に招く”Family day”とのこと。小さな子どもさんもたくさんいましたし、あちこちで英語も飛び交っていました! 和菓子づくりや有松絞り、江戸友禅などの体験ワークショップなど伝統文化系のメニューが多かったのが面白いです。その江戸友禅WSを担当されたのが歌舞伎の衣裳を製作する会社の職人さんで、その方がお誘いくださり参加することになりました。

職人さんといっても、とってもアクティブ! 友禅染めの魅力や楽しさを伝えるために、カフェやいろんな場所に出かけて体験ワークショップをやっておられるのです。何度も試行錯誤されているので、ノウハウがすごくきれいに出来上がっていて、感心しました。ひとりで運べるMaxの量の荷物(かなり大量ですが)、販売に便利なスマホを使ったレジシステムを導入、WSをしながらすでにFaceBookに投稿! と、独りで何役もこなしていました。

WSを行うのは準備も大変、後片付けも大変。パワーもコストもかかります。でも、コツコツ続けておられるので、きっと江戸友禅に親しむ人は確実に増えていますし、その活動がいろんな縁を引き寄せ、facebook Japanさんでのこうしたイベントにもつながっています。きっと、底流には大きな危機感もあるのだと思います。このあたり、ものすごく勉強になりました。

facebook Japanという会社も開放的で、みなさんとっても気さくな方ばかりでした。オフィスは、六本木の高層ビルのかなり高い階にあり、東京タワーや海がすぐそこに見えます。靴を脱いでくつろげるスペースや、飲み物や食べ物もいろいろ揃っていて、ユーモアとくつろぎのあるオフィス空間でした。

せっかく有松絞りの体験WSがあったので、手拭いを染めてみました。
有松絞り

● 2014年9月22日(月)

【モノを伝えるということ】
絵巻切断

伝統芸能の道具と直接関係ないのですが、いろんな意味でつながっているような気がする展覧会があるのでお知らせします。先日から根津美術館で「名画を切り、名器を継ぐ」という展覧会はじまりました(11/3まで)。佐竹本三十六歌仙絵の斎宮女御が展示されている!というのがドキドキします。

(以下、根津美術館Webより部分転載)
佐竹本三十六歌仙絵 斎宮女御
秋田佐竹侯に伝来したことから佐竹本と呼ばれる現存最古の三十六歌仙絵の断簡。2巻では高額すぎて値がつかず、大正8年(1919)に巻物を各歌仙ごとに切断した。佐竹本で唯一背景を伴う華麗なこの図には最高値が付けられ、最終的には実業家茶人として名高い益田鈍翁(1848-1938)が手に入れた。(9/20-10/13、10/28-11/3展示)

高価なモノを伝えていく上で、なにがしかの「経済」がからんでくるわけですが、佐竹本の場合は切断するということになった。この経緯については、『絵巻切断―佐竹本三十六歌仙の流転』(NHK取材班、高島光雪、井上隆史 歌詞解説 馬場あき子 美術公論社 1984)にすごく面白く書かれているのですが、貴重な美術品を切断するということに大きなショックを覚えました。

切断されたもののなかで、みんなが欲しがったのは「斎宮女御」でした。モノを伝えていく、ということを改めて考えてみたいと思います。

根津美術館「名画を切り、名器を継ぐ」
http://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/

● 2014年9月18日(木)

【将棋会館】
将棋会館
先日、将棋会館なるものに初めて行ってみました。千駄ヶ谷駅、といえば能楽堂!と思っていたのですが、なんと将棋の聖地でもあるのですね。駅から歩いて10分くらい。将棋をやっていない人などだれでも入ることができます。ちょっと入るのに勇気がいりますが・・・。

1階には売店があります。本や、将棋グッズ、将棋盤や駒、その他おもしろいものがたくさん。2階はいろんな人が将棋をやっている「道場」と呼ばれるところで、見学だけも可能です(対戦する人は料金がかかります)。小学生とおじいちゃんが対戦している風景もいっぱいあって、なんか感動的でした。受付があって、対戦したい人は申し込めばあちらで相手を見つけて、病院みたいに「○○さ〜ん」と呼んでくれて、セッティングしてくれます。私は将棋の強い知人に連れていってもらったので、相手の方に「見学してもいいですか?」とひとことお願いしてから見せていただきました。

小学生との対戦では、小学生がときどき、相手の顔をキッと見るのですが、その目つきが鋭くてびっくりしました。プレッシャーをかけているのかな、と思っていたのですが、相手が強いので「なんだろう?この人?」という素直な気持ちが目つきに表れたのだと思います。対戦をしていると、ギャラリーが集まってきたりもするのですが、小学校低学年くらいの男の子が2人くらいやってきて、局面を見てウンウンとうなづいていたり、「あ〜だめだよその手は〜」みたいな顔をしているのが、もうかわいくて、笑ってしまいそうになりました。

小学生と対戦しているおじいちゃんが負けたときには「強いな〜おまえ〜」と苦笑いしていました。それで、小学生が対戦した手順をばーっと再現していて、解説していました(笑)。それから男性ばかりのなかに、中学生くらいの女の子がいて、彼女もすっごいかっこよかったです。

ちょっと入りづらくはありますが、あの風景はなかなかいいものがあります。

日本将棋連盟のWebサイト
http://www.shogi.or.jp/aboutus/kaikan/

● 2014年9月8日(月)

【雅楽案内】
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たとえば能の『井筒』とか、歌舞伎の『絵本太功記』とか、その演目を知っていたら、演目名を見ただけで、ばーっと舞台のイメージが頭のなかに広がります。
でも、まったく知らない演目だと、ただの漢字の羅列ですよね。ところが、ピリットしたいい解説があると、俄然、興味がわきます。そんな風に改めて感じる出来事がありました。
秋に雅楽へ行くのですが、まだあまりよくわからないので曲名を見てもほとんどイメージが湧きません。でも知人が、こんな解説をしてくれました。とても楽しい解説文だったので、みなさんにも共有します。

<管弦>
『盤渉調音取(ばんしきちょうのねとり)』は冬の調子ですね。もの悲しくも美しい名曲の多い調です。
『千秋楽(せんしゅうらく)』は相撲の千秋楽の語源の曲。
『越殿楽残楽三返(えてんらくのこりがくさんべん)』は、三回繰り返しながら楽器が少しずつ消えていく面白い展開の曲です。
『剣気褌脱(けんきこだつ)』は音の展開がちょっと不思議で僕結構好きで、演奏が珍しくもあるので、個人的には目玉。

<舞楽>
『左方 還城楽(さほうげんじょうらく)』は鉄板でいいです。蛇を食べる民族が蛇を見つけて喜ぶ、かわいらしくダイナミックな舞です。

なんか、これを読んでいるだけでも楽しくなりますよねー。こんな風に、短くても楽しくなるような解説が大事だなーと思いました。
写真は雅楽とは全く関係ないのですが、ある日の大道具で働くときの足もとです。SOU・SOUの足袋靴下と雪駄。
みなさん、よい秋をお過ごしくださいね!