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田村日記

(12) 2016年 秋冬の巻

16/06/01 UP

● 2016年12月13日(火)

【日本の伝統芸能展】
三井記念美術館で開催中の「日本の伝統芸能展」に行ってきました。雅楽、能楽、歌舞伎、文楽、琉球芸能、民俗芸能に関する展示があり、小規模ながら興味深く見ることができました。展覧会のチラシには写真も掲載されていますが、やっぱり本物を直に見ると迫力があります。個人的に面白かったのは、文楽を上演するときの人形遣いの体勢をマネキン3体で再現展示したコーナー(監修は桐竹勘十郎さん)。映像などで見たことはありますが、じっと止まっていてくれるので、しげしげと観察できます。文楽の頭も、たくさん展示されていていましたが、すごく魅力的でした。


展示室の外では、美術館が所蔵する能面についての映像(15分くらい)も上映されていました。それから琉球の芸能の様子を写生したスケッチ帳も展示されていました。片山春帆という画家が描いたもので、沖縄戦で多くの資料が消失しているなか、とても貴重なものだそうです。多様な人が関心を持ち、記録をしておくことがとても重要なのだと感じました。少し古い記事ですが琉球新報のWebに記事がありましたので、お知らせします(2012年)。

戦前の衣装 色鮮やかに 片山春帆記録画公開
http://ryukyushimpo.jp/news/prentry-200096.html

日本の伝統芸能展は、1/28まで。
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/

● 2016年12月11日(日)

【結髪師】
京都の花街で日本髪を結う人も減ってきているようです。一方、歌舞伎のなかの日本髪を結う「床山さん」は、若い人も多く、今のところはしっかり継承されているようです。ただ、新しく働き始める若い人は以前よりも少なくなっており、油断はできない状態だと思います。
歌舞伎のなかの髪型は、実際の生活風俗をベースにしているものが多いので、以下の本は道具ラボとしても気になります。価格は2万円(税別)で限定1500組で販売とのこと。
「京都の花街で30年以上にわたり、芸舞妓まいこの髪を結ってきた結髪師の石原哲男さん(68)(京都市下京区)が、髪結いの技術をまとめた専門書を自費出版した。日本髪の伝統が廃れていく現状に危機感を抱き、自らが培った技を紹介している。」

日本髪絶やさぬ技、京都・花街の結髪師が指南本(WEBサイトでは期限切れで現在は記事を読む事ができません)
http://www.yomiuri.co.jp/osaka/news/20161210-OYO1T50026.html

● 2016年11月11日(金)

【伝統芸能の道具とワシントン条約】
伝統芸能の道具は、動物や植物を素材としたものも多くあります。というか、近代になって人工素材が登場するまでは、すべての道具は自然界にある動物や植物を素材としていました。たとえば三味線は、木と動物の皮(猫や犬)から作られますし、糸は絹(かいこ)、バチは象牙や木などが素材です。自然の恵みから、素材をもらって作られていましたが、そのなかには絶滅が心配されるものもでてきています。象牙(象の牙)や鼈甲(亀の一種の甲羅が原料)なども、そうです。

グローバル化した現代では、遠い国からいろいろなものを輸入できます。絶滅が危惧される野生の動植物が国際取引によって、過剰に利用されるのを防ぐために「ワシントン条約」という国際条約がつくられました。数年に1回の頻度で、締約国会議が開かれていますが、今年の秋に南アフリカのヨハネスブルグで第17回締約国会議(COP17)が開催されました。その会議に、国際NGOの一員として、知人の西原智昭さん(国際環境NGOのWildlife Conservation Society所属)が参加されました。このたび、楽器製造や販売に関わる人達のために、COP17でどのようなことが話し合われ、なにが決まったのかをお話される講演がありましたので、うかがってきました。

お話の内容は、象牙がメインでした。三味線などの楽器の素材として多用されている象牙は、ワシントン条約で国際取引が規制されています。日本でも、その実効性を高めるために1992年に「種の保存法」が制定され、象牙管理制度が創設されました。
象牙の国際間の商取引は、禁止されているので、それを行うと違反になる、というのはわかりやすいと思いますが、たとえばプロの演奏家が海外公演で三味線を使うために、海外に三味線を持ち出したいときがあったとします。たとえ演奏活動が目的であっても、海外で販売するということも可能な状態であるともいえるため、演奏活動の場合は、「売買しない」ということを税関で証明しなくてはなりません。この手続きがややこしいそうで、書類不足で没収されたケースもあったそうです。ですから、今回のワシントン条約会議では、その規制の仕方を簡略・明瞭化し、手続きを煩雑にしない方向で検討すべきという推奨案が可決されたとのこと。今後、具体的にどういうやり方になるのか、注目すべきと西原さんは報告されていました。

このように「伝統芸能の道具」にとって「ワシントン条約」は深く関わる条約なのです。海外公演に出かける場合など、規制の対象になっている道具を所持していないか? 俳優、演奏家や関係者などもしっかり把握しておく必要があります。楽器製造や販売の関係者も、ワシントン条約や種の保存法の内容をきちんと理解できていない人も多いようです。ますますグローバル化していく時代ですので、統括団体などが主体となって勉強会を開くなど、うっかり違反をしないようにしておくための知識をきちんとそなえておくことが大切なのではないかと思います。

象牙とともに、聴衆が関心を寄せていたのが「紅木 Rose Wood」の話題です。COP17では、紅木の国際取引の規制を強める案が可決されたそうです。私は紅木といえば三味線の棹が、すぐに頭に浮かんだのですが、ギターの材料としてもよく使われているそうで、今後、具体的にどのように規制がかかってくるのかを心配する声が会場から多くあがっていました。

道具ラボで、以前から関心をもっている能の「羽団扇」も希少な鳥の羽が使われています。ワシントン条約の考え方は、地球全体の環境保全に対する国際社会の考えを反映しているところもあります。その動向に関心をもちながら、道具の復元指針を考えていきたいと思っています。

ワシントン条約
野生動植物が国際取引によって過度に利用されるのを防ぐためにつくられた条約。1973年に米国のワシントンにおいて採択されたため「ワシントン条約」と呼ばれています(1975年に発効)。対象とする野生動植物を 附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれかに掲載して、各附属書ごとに規制をおこなっています。日本は、1973年に署名し、その後1980年から発効しました。

ワシントン条約の正式名称
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」
Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora
※英語の頭文字をとって、CITES(サイテス)とも呼ばれます。

● 2016年10月26日(水)

【真鶴】
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真鶴出版(http://manapub.com/)という泊まれる出版社に宿泊し、真鶴(まなづる_神奈川県)のまちを体感してきました。中川一政美術館があるので、以前から行ってみたいと思っていましたが、若くて面白い人たちがたくさん集まってきていて、とても魅力的なまちでした。細い路地もたくさんあり、くねくね曲がったり、坂をのぼって下りてと、距離感がわからなくなるような不思議な空間。真鶴で宿泊されるときは、真鶴出版さんがおすすめですよ。一緒に歩いて、まちを案内してくださるんです。楽しかったです。
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真鶴出版の川口さん(右)と來住(きし)さん。とっても素敵なお二人でした。手に持っているのは、『ひとり出版社という働きかた』。私の知人の西山雅子さんの本なのですが、お二人も持っておられました。

真鶴出版ができるまでのお話も、とってもいいですよ。
http://colocal.jp/…/art-design…/manazuru/20161018_83140.html

● 2016年10月15日(土)

【バレエの忠臣蔵】
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東京バレエ団の公演「ザ・カブキ」を見てきました(新国立劇場)。バレエ版の忠臣蔵という感じで、フランスの振付家のモーリス・ベジャールがつくりあげた作品です。ん?というところもあるにはありましたが、歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」を知っている者にとっては、筋もよくわかり、また「はは〜ここは、こういう風にしたんだなー」とか、「ここはこう省略したんだな」とか、よくわかって、とてもおもしろく拝見しました。

公演パンフレットには、ベジャールのインタビューがありましたが、それも読み応えがありました。忠臣蔵という作品を「完璧に仕上げられ、今でもいきいきと息づいている作品に現代の演出家が入り込む余地はないし、入ろうとすべきではない」としながらも、「この芸術を下敷きに、そこから夢をふくらませ、歌舞伎の名作に根をおろしながら、現代の魅惑的な青春へと飛翔し、もとのものとはまったく違った別の生命をもつ新しい作品を創ることは、許されていいだろう。我々は現代を、我々の時代を生きている。我々が現代に生きる存在であるからこそ、古きをたずね未来に気づくことができるのである」として、この作品を生み出した気持ちが書かれてありました。古典作品は、確かに手を加えるところがないほど完成されていますが、古典芸能になじみがない人や、初心者にはわかりづらいところもあります。木ノ下歌舞伎なども、古典作品をうまく現代に沿うように演出していますので、さまざまな角度からのこうした取り組みはとても大事だと感じています。

音楽は、録音したものを流しているのですが、義太夫もところどころに使われていました。これがなかなかいいなと思ったら、パンフレットを見ると豊竹呂大夫さんと鶴澤清治でした。定式幕を使ったり、ツケや柝などもあって、随所に歌舞伎の要素を取り入れているのも、おもしろかったです。あとは、ついつい大道具の細部にも目がいきました。たとえば、歌舞伎の舞台で多用する桜の花ののれんのような「吊り桜(糸桜)」を模したものが吊られていたのですが、オペラグラスで見ると、花が違うんですね(当たり前ですが)。歌舞伎の吊り桜の花は、ぱりっとした紙で作られていて、そばで見ると結構荒いんです。それくらいの荒さがないと遠くから見たときに、立ってこないというか。バレエのものは、それに比べて、細かく作ってあるように見えました。形状はほぼ同じなんですが、客席から見たときに印象がやはり違うんだなと。実験のようで、個人的におもしろかったです(その部分を気にして見ているお客は、他にだれもいなかったと思いますが)。

外国人が歌舞伎の古典作品を見て、世界にわかるように再構成して表現すると、こういう感じになるんだーと、いろいろ勉強にもなりましたー。もとの仮名手本忠臣蔵のストーリーがわかってないと、ついていけない感じじゃないかな?なんて、他のお客さんのことがちょっと心配になったのですが、終わってみるとすごいカーテンコールで、十分楽しんでおられたようでした(幕間で、「筋がわからないところがあったー」なんて声もいろいろ聞こえてはいました)。ちょっとびっくりしたのは、判官が切腹した後に拍手があったこと。お客さんの拍手のタイミングも歌舞伎や能とも違っていて、そのへんも面白かったです。

それから由良之助を演じた秋元康臣さんの踊りがすばらしかったです。身体がとにかくぶれなくて、基礎力がとても高いように感じました。腕が長く、それを生かした豊かな表現で、いつまでも見ていたくなるような踊りでした。能のよい演じ手の舞も「この時間が、ずっと続けばいいのに」と思う感じなのですが、やはりすばらしい芸を生で見られることは、この上ない至福ですね。

● 2016年10月14日(金)

【完全版・忠臣蔵】
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今年は国立劇場(東京・三宅坂)が開場して50年という節目の年です。そのようなこともあって、10月から3ヶ月連続で歌舞伎の名作『仮名手本忠臣蔵』の完全版の通しを上演されるという企画がはじまっています。ご縁がありまして、私も国立劇場の歌舞伎公演の公演パンフレットの俳優聞き書きをお手伝いさせていただくことになり、少しですが忠臣蔵を演じる俳優さんから直接、いろいろお話を聞く機会にめぐまれました。
10月公演をさっそく拝見してきましたが、ふだんは省略される「二段目」なども上演されて、戯曲の細部がよくわかりました。わかっているつもりでいるのと、実際に舞台で演じられているものを見るのは、やはり違うなぁというのが正直な感想です。大序から、四段目までで、結構長時間ではありましたが、とても面白く見る事ができました。来月以降も、とても楽しみです。
少し話しはずれますが、仲良くしている方からバレエの忠臣蔵がなかなか面白いという話をきいていました。有名な振り付け家のモーリス・ベジャールが作り上げたバレエで、忠臣蔵をよく理解していて、すごい!と言われるのです。バレエも歌舞伎も含め、いろいろな舞台芸術をよくご覧になっている信頼できる方が言われるので、ずっと気になっていました。ちょうど今月、その公演があるというので、でかけてみることにしています。とても楽しみです。

国立劇場 2016年10月公演
「通し狂言 仮名手本忠臣蔵」第一部
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2016/10174.html

バレエ公演「ザ・カブキ」
http://www.nbs.or.jp/stages/2016/kabuki/schedule.html

● 2016年10月10日(月)

【ミニ情報あれこれ】
最近、キャッチした気になる情報を以下にお知らせします。

・毎日新聞の連載「京に生きる・技と人 」
職人さんの言葉は、ずしんときますね。テキストが途中までしか掲載されていませんが「続きを読む」をクリックすると全文読めるようです。「織る職人ではなく、織れる職人になりたい」と思ってきた。
http://mainichi.jp/ch160507949i/京に生きる・技と人

・高知新聞 植物愛あふれる牧野富太郎(高知出身)の繊細な筆
牧野富太郎の使っていた筆についての記事。蒔絵のための筆を思い出します。
牧野が作画に使ったのは筆。ネズミの毛を3本束ねた筆を自作していたという逸話もある。村上さんは「さすがに3本は冗談だと思いますが、ネズミの毛でできた筆の毛を抜いて、さらに細くしていたと思われます」と想像する。
http://www.kochinews.co.jp/article/54090

・三井記念美術館さんで11月から開催される「日本の伝統芸能展」。楽しげな雰囲気ですね。
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index2.html

● 2016年10月7日(金)

【歌舞伎座の襲名披露公演】
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今月の歌舞伎座は襲名披露公演。二階にはこんな大きな箱が。この箱に、祝幕が入っていた、というお印(目録的なモノ)。実際には、あの幕はこんな小さな箱には入りません(笑)。この箱、いいですよね。

● 2016年10月6日(木)

【奈良の櫛職人の遺品である櫛を、使い手に橋渡しするプロジェクト】
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奈良にお住まいの方から、「櫛職人だった父が遺した櫛を、よき使い手に使ってもらいたい」というお問い合わせをいただいてから、動き出したこのプロジェクト。ご依頼主とはお会いしたことはなく、ずっとメールでのやりとりですが、少しずつ進めています。
遺品の櫛は「理容師向けの櫛」であったため、理容師の資格をもつ友人を通して、使い手を捜しています。ご依頼主からお預かりしている櫛は、べっこうの櫛もあるのですが、理容師さん目線で言うと、櫛と髪の毛が重なったときに、櫛が黒いと見えづらいとのこと。そういう理由で、黄色い部分が多いべっこうの櫛が使いやすいそうです。一方で、黄色い部分が多いべっこうは、黒い部分が多いものより高価。一般のかんざしなどでも、黄色が多いもののほうが高価です。上の写真の2本の櫛は、どちらもべっこうです。
そんなこともあり、いつも通っている美容院へ行っても、つい美容師さんの櫛に目がいきます。私の担当者の方が白い櫛を使っていたので、「やっぱり白いほうが、使いやすいですか?」とたずねると、「私は白いほうが好きですよ。実際、白い櫛のほうがよく売れているそうです。でも個人の好みで黒い櫛が好きな人もいるので、人それぞれですね」とのことでした。使い手、作り手の両方から細かく話を聞いていくと、いろんなことがわかって面白いです。