フェイク・ベッコウ(改良) BEKKO
Vol. 1

(1)取り組み始めて1年半。課題山積みの現状

人工素材の櫛やかんざしで飾られた歌舞伎のかつら(『廓文章』夕霧)

12/03/25 UP

「鹿の子」を無事に復元させた後、2010年6月から本格的に「人工素材のかんざし、櫛」に取りかかりはじめました。
人工素材の櫛は、日常でも身近で見かけるものなので、簡単に解決するだろうと思っていましたが、これがなかなか・・・。
(それこそ、100円ショップでも櫛は売られていますもんね)
2012年3月現在、難航したままです(すでに1年半、苦戦しています)。

【2012年3月現在の現状と問題点】

・歌舞伎の床山が必要とする櫛は、一般の女性が使う櫛とは大きく異なる。
私たちが使う櫛は、髪をとかすためですが、歌舞伎のかつらでは「飾り」として櫛を使います。

・飾るための櫛は、たとえば舞妓さんや芸妓さんなども使い、そういう女性用の人工素材の櫛を
骨董市などで探すという手もあります。
骨董店や、京都の天神さんなどの骨董市などでも探してみていますが、
そういうところで売られているものは、女性用の櫛のサイズです。
歌舞伎のかつらで使う櫛は、女性用よりも大きいサイズが求められます。
ご存じのように歌舞伎では男性俳優が女役を演じますから(女方)、かつら自体も大きい上、
舞台用なので、やはり見栄えがするように少し大きめなのです。

・人工素材の櫛とはいえ、特殊な櫛なのでそれなり値段も高い。
歌舞伎では、かんざしに俳優の家紋が入る場合もあるので、特注することもある。

・大衆演劇などでも、同様に人工素材の櫛やかんざしが必要で、
浅草などでそれらの髪飾り類を販売している店もある。
これまでは、これらの店に特注品を発注してきたが
その店の職人が高齢か、なにかの理由で、注文に応じられなくなってきている。

・同じ形の同じサイズの櫛やかんざしが大量に必要であるならば、
金型を作ってもらって、作ることもできるが(鯛焼きを作るみたいに)、
さまざまな形の櫛やかんざしが必要である上、
それぞれ数点〜数十点くらいの少量しか必要としない。
経済的にみて、金型で作るのは、採算が合わない。

・人工素材の櫛やかんざしを売る店に、商品を卸している職人の工房にも訪問してみた。

・新しい職人を育てるために、若い女性を床山さんに引き合わせた。
現在、修業中だが、櫛のアウトライン、かんざしなどは、だんだん作れるようになってきている。
しかし、櫛の歯を引く作業はかなり高度な技術が必要であるため、習得するまでにはかなりの時間がかかる。
そのうえ、たとえその作業ができるようになっても、手作業では採算が合わない。

・櫛の歯を専門に引く「歯引屋」という職人がいるらしい。
しかし、その機械(おそらく、すごくシンプルな工作機器と思われる。機械というより道具に近いのでは)は
絶対に見せてくれないので、謎である。
いろいろ当たった結果、関東地方では最終的にはどの店も同じ人物に「歯引き」をお願いしているらしいが
その職人は、「歯引き」では採算がとれないらしく、最近は仕事を受けていないらしい。

・町工場などで、歯の部分だけ引いてもらい、アウトラインは必要に応じて職人の手作業で
形を作る方法を検討中。
ものづくりのエキスパートの協力者が櫛の図面を作成してくださり、その図面をもって
少量の歯引きに対応してくれる町工場を探しているが、難航中。
少量しか発注できないため、値段の折り合いがつかないことが大きな課題。

・「値段の折り合い」は、さまざまな場面で、大きな課題となっている。
床山が支払える金額と、つくり手にとって最低限必要な(生活が成り立つための)値段を
うまく整えない限り、技術的に可能な道がみつかっても、継続可能な関係にならない。

・現在、歌舞伎の舞台で使われている人工素材は、本ベッコウに似せて作られたものだが
やはり本ベッコウの風合いとは遠い。
もう少し、本ベッコウに近い素材を追求したい。
こちらも、ものづくりのエキスパートの協力者が努力してくださっているが、難航中。

【課題のまとめ】

ポイントは2つ。
1つ目は技術。少量で櫛の歯を引いてくれる職人、あるいは町工場がみつからない。
2つ目はビジネス。「床山が支払える金額」と「つくり手にとって最低限必要な(生活が成り立つための)値段」の調整。

この2つの課題は、これから関わる全ての問題に共通してくると思います。
一般消費者も使える商品も同時に開発して、生産量を増やすなど、もう少し大きな視点から取り組まないと
解決しない問題かもしれません。