フェイク・ベッコウ(改良) BEKKO
Vol. 18

(18)2014年5月 プロダクトデザイナーと図面づくり

顔合わせ201405031

14/07/06 UP

2013年の夏に、櫛の復元のルートが確立し、秋にその櫛とかんざしが歌舞伎座デビューし、「櫛の復元プロジェクト」も一応完了ということで、この件についてはちょっとのんびりしていました。
そんな折、床山の親方の高橋敏夫さんから、新たな相談を受けました。鯖江の眼鏡加工会社の長井さんに発注する際に、図面が必要なのだけど、その図面を作ってくれる人を捜してほしいとのこと。それで、いろいろ思案して、田村民子の知人のプロダクトデザイナーの矢島光さんをご紹介することにしました。矢島さんは、株式会社アールピースファクトリーの代表で、陶器や革小物のデザインをされているのですが、めがねのデザインもされているのです。話をしてみると、間接的ではありますが長井さんのこともご存じとのこと。さっそく、高橋さんと3人で会う機会を設けました。

アールピースファクトリーのHP
BARCA
http://www.arpiece-factory.com/

まずは、上方の傾城につかう紋入りのかんざしを図面にしてもらうことになりました。『吉田屋』の夕霧や『阿古屋』などで使います。演じる俳優の紋(定紋とは限らず、替紋などが図案になることも多いです)が入っており、一人の傾城になんと12本ものかんざしを差します。図面にするスキルだけでなく、かんざしのなかに紋をうまくおさめるデザイン力も必要。矢島さんは、ぴったりの人材です。

矢島さん
紋の向きを検討する高橋敏夫さん(左)と矢島光さん(右)

上方の傾城は、髪の後ろに「えりずり」という豪華な飾りもつけます。こちらは金属製で、長い「びら」が垂れ下がっています。動くたびにシャラシャラと音がしますし、キラキラ光って華やかなかざりです。これにも俳優の紋が入ります。びらの部分のデザインも、いろいろあって、見比べてみると本当に面白いです。でも、持ってみるとかなり重く、これを4本も差していると俳優さんも大変だろうなと感じました。俳優さんへの負担を軽くするためには、素材を検討し、できるだけ軽くつくるほうがいいのですが、いい音がしなくなるのも困ります(アルミなどでは、あまりいい音がしない)。ものづくりに関わっていると、このあたりの詳細がわかって、とても勉強になります。

えりずり

えりずり

矢島さんは、素材にも詳しく、プラスチックに金属のメッキをすることができるとか、チタンやマグネシウムなどの素材でも作れるなど、さまざまな意見を出してくださいました。そして、こうした歌舞伎のかんざしに触れることで、「こんな照明器具があっても、かっこいいですね」などと、その美意識を反映したプロダクトのインスピレーションも沸いてきたようでした。これから少しずつ、床山さんと交流していただき、床山の技術発展にもご協力いただきつつ、矢島さんご自身の商品づくりに生かしてもらえたらと思っています。