百姓蓑(復元)MINO
Vol. 3

(3)2014年2月 「百姓蓑」の素材の植物は何か?

201402kaigo

15/01/26 UP

「百姓蓑」はどんな植物を使って作られているのか?
藤浪小道具の近藤真理子さんとは、なんとなく「藁(わら)なのかなぁ」という話はしていましたが、素人では判断が全くつきません。この疑問を解くためには、植物の専門家に関わっていただく必要があるため、道具ラボの幹事である池本桂子さんの提案で、株式会社エコロジーパスの北澤哲弥さんに相談をしてみることにしました。
株式会社エコロジーパスは、生物多様性の保全を専門とするコンサルティング会社。北澤さんはその取締役であり、環境学博士です。植物生態学を専門とされていますので、この問題に関わっていただくには最高の人物です。道具ラボの活動にも以前から共感してくださっており、事情をお話するとボランティアで関わってくださるというありがたいお返事をいただきました。

そこでさっそく日程調整を行い、「百姓蓑」の現物を持って、池本さんと共に国分寺市にあるエコロジーパスさんの事務所におうかがいしました。大きな目的は「百姓蓑」の素材がなにであるかを見定めてもらうことです。ちなみに生物の分類上の所属や種名を決定することを専門用語で「同定(どうてい)」と言うそうです。近藤真理子さんにも参加いただきたかったのですが、お仕事の都合で残念ながら欠席となりました。

百姓蓑をテーブルの上にのせて素材を見てもらったり、実際に着用してもらったりしながら、3人であれこれと検討をしました。いろいろ疑問が出てくるのですが、北澤さんがすぐに答えてくれます。専門書もたくさん出してくださり、植物の世界が想像以上に奥深く、とても楽しい時間となりました。北澤さんが百姓蓑の素材がなにであるか判断していく過程がとてもおもしろかったので、ご紹介します。

・蓑を少しほぐして、素材の1本の長さをはかってみる。
→50センチくらいあった(結構長い)。
→長さからわかったこと。
=素材は、藁(わら)ではない。
イネ科の植物にしては葉が長い。50cmになるような種は限られる。

・素材の植物が何であるかを判断するには、花や果実、茎などがないと難しい。
スゲの可能性もあるが、スゲという植物は、非常に種類が多い。
スゲの神様みたいな超専門家なら、見ただけで同定できるが、乾燥した葉だけで同定するのは非常に難しいと思われる。

北澤さんはスゲについての本もたくさん持っておられて、以下の本には蓑についての記述もありました。
『歴春ふくしま文庫17 スゲ類の世界 〜福島県に時勢するスゲ類』
著者 斎藤 彗(さいとう さとし)1926年福島県生まれ。
2001年 歴史春秋出版株式会社 発行
*スゲについて植物学的なこと、蓑などの民俗学的なことなどが総合的に書かれています。 蓑についての記述としては、以下のような文章がありました。
「雨蓑にはミヤマカンスゲ を使うのが普通だが、他にショウジョウスゲなどを使用。これは水を吸収しないためで、背負蓑には稲藁でも作られた。」134P

ここで、あらためて<歌舞伎の百姓蓑にとって重要な条件>をまとめてみます。

1)材料となる乾燥した葉の長さが50センチ以上あること。
=このくらい長さながいと、百姓蓑を作ることができない。

2)乾いた状態で赤褐色であること。
=歌舞伎の「百姓蓑」では、この色が非常に重要! 赤みがかっていないと「百姓蓑」とはいえない。

ともかく、百姓蓑の素材が藁(わら)ではなかった!ということが大きな衝撃でした。これがわかっただけでも、大きな収穫です。次のステップとしては、「では、素材はなにか?」をつきとめなくてはなりません。この日の推測では、「スゲ」である可能性が高いかなぁという感じでした。
北澤さんは博物館などにもたくさんの知り合いがいらっしゃるので、その人脈に頼って相談にのってくれそうな人を捜していただくことにしました。近藤真理子さんへも「藁ではなかった!」という報告をしました。みんなで、びっくりしました(笑)。ともかく、1つ駒を進めることができた一日でした。当たり前ですが、やはり専門家に関わっていただくことは大事ですね。

北澤哲弥さん
株式会社エコロジーパス取締役。江戸川大学非常勤講師。博士[環境学]。専門は植物生態学。
「私たちは生物多様性の保全を専門とするコンサルティング会社です。近年、CSRとして生物多様性の保全活動に取り組む企業が増えてきました。しかし、本当に地域に貢献する活動にするためには、多くのハードルがあります。私たちは、企業が事業所や工場の敷地、その周辺の森川海などでおこなう生物多様性保全活動をサポートすることで、持続可能な社会の実現を目指しています」
*「百姓蓑」の復元には、ボランティアとしてご参加いただいています。

株式会社エコロジーパス http://ecopath.co.jp/

【写真左・中】「百姓蓑」を試着している池本桂子さん。想像以上に機能的に作られています。この百姓蓑は、古くなったため引退したもの。そのため、かなり薄くなっています(この百姓蓑は、藤浪小道具の近藤真理子さんから拝借しているものです)。【写真右】百姓蓑の素材を調べているエコロジーパスの北澤哲弥さんと池本桂子さん。