鷹匠の道具
Vol. 01

(1)鷹匠が使う「大緒」の復元ストーリー

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14/05/16 UP

諏訪流の鷹匠が使う特殊な組紐「大緒(おおを)」を復元したい。
諏訪流の鷹匠である大塚紀子さんのこの願いをかなえるために、大塚さんと連絡を取り合ってきた樋野晶子さんと道具ラボ代表の田村民子が相談をして、歌舞伎や能の組紐を作っている職人の江口裕之さんにお引き合わせすることにしました。

2013年3月。大塚さん、晶子さん、田村の3人で、江口さんのお仕事場へ向かいました。大塚さんは、物静かな雰囲気なのですが凛とした芯の強さを感じる女性です。江口さんの奥様の惠さんも加わって、さっそく復元したいという「大緒」を拝見します。

5人会議

左から江口裕之さん、惠さん、樋野晶子さん、大塚紀子さん。机の上にあるのは古い大緒。

まずは「大緒」とは何かについて、大塚さんから説明をしていただきました。大緒とは、鷹を据えるとき(鷹を腕にのせることを「据える」という)に、鷹の足つなぐ紐です。犬のリードと同じような役目、というとわかりやすいかもしれません。絹を素材とし、組紐の技法で作られます。長さは十二尺(約360cm)とのこと。みんな鷹匠がどんなことをやっているか興味津々ですから、次々と質問が飛びだします。初顔合わせだったのですが、すぐに打ち解けて、楽しい時間が流れていきます。そうこうしているうちに、大塚さんがおもむろにテーブルの脚に紐をくくりつけはじめました。みんな何が起こっているのか「???」の状態になったのですが、大緒を使うときの実演をしてくださっていたのです。それで、みんなであわてて大塚さんのそばに集まり「もう1回!」を連発しながら、何度も見せていただきました。大塚さんはおっとりされているのですが、その手さばきの早いこと!

大塚さん
大緒の実演をされる大塚さん。

江口さんがこれまで作られた組紐なども大塚さんに見ていただきました。その品質の高さを見て、大塚さんはすぐに発注することを決められたようです。それで、細かい寸法や求める質を詳しくうかがいました。鷹匠さんが現場で、どんな風に組紐を使われるのかを見たいということもあり、納品の際にみんなで鷹匠さんの拠点を訪問しようという話になりました。

そして2013年4月。江口さんと惠さん、晶子さんの4人で青梅市御岳(東京都)にある鷹匠さんの拠点を訪れました。山あいにある立派な古い家屋で、風格がありました。大塚さんは「諏訪流放鷹術保存会」に属していて、その諏訪流の第十七代目宗家である田籠善次郎さんにもお目にかかれました。うかがった日は、門下生の方も多く集まっておられました。若い人、そして女性が多いことにびっくり。みなさんで鷹匠が使う道具を手作りされていました。

そして、いよいよ江口さんが復元した大緒を見ていただきます。江口さんから大塚さんへ手渡されると「わ、きれいですね」と言葉がもれます。そして指に軽く巻き付けて、締まり具合をみます。鷹の安全にも関わりますから、大切なチェックポイントです。その締まり具合も丁度よいようで、江口さんもホッとされていました。緊張気味だった江口さんもようやく笑顔です。田籠さんにもご覧いただくと、「こういう質の高い組紐や房を作れる人がいるということは、ありがたい」と、とても喜んでおられました。田籠さんはとても気さくな方で、鷹が鶴と戦う様子や鷹匠が左腕にはめる手袋の作り方、その素材には鹿革が適していることなど、丁寧に教えてくださいました。

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左:諏訪流の第十七代目宗家である田籠善次郎さん。中:江口さんが作った大緒に鹿の革を巻き、仕上げをしている田籠さんと大塚さん。
右:江口さんが復元した新しい大緒をつけた鷹を据える大塚さん。

余談になりますが、一連のこのプロジェクトについては、BS-TBSの報道番組「週刊BS-TBS報道部」が取材をしてくださり、2013年4月28日に「伝統の技を結ぶ絆」というタイトルで放送されました。

そして私たちが探している能の「羽団扇」の素材となりそうな羽根について。大塚さんに羽団扇を使うシーンの舞台写真をご覧いただいたのですが、かなり希少な羽根であることが判明しました。大塚さんたちが調達できそうな羽根をサンプルとして1本くださいましたので、これを足がかりに、羽団扇の素材となる羽根のほうも進めてみたいと思っています。

●後日談●
2014年4月に、諏訪流の鷹匠の世界を追ったドキュメンタリー映画「ぬくめどり」が完成しました。完成試写会のご案内をいただいたので、田村が拝見してきました。鷹匠の日常生活、鷹との関わり方、若い門下生の修業の様子など、鷹匠の実態がよくわかる映像でした。2014年4月時点では劇場公開の予定がないそうですが、ぜひ多くの方に見ていただきたいと感じました。

鷹匠のドキュメンタリー映画「ぬくめどり」
http://www.bosch-inc.co.jp/nukumedori/

諏訪流鷹匠については以下をご覧ください。
http://www.falconers-hermitage.com/aboutsuwa.html

樋野晶子さんのブログ「鷹匠×組紐レポート」にはこのプロジェクトの経緯が晶子さんの視点で詳しく書かれています。
写真も多く、大緒の復元については、こちらが詳しいです。そしてオオタカの鳴き声なども聴くことができます!
http://falcon-dogu-report.tumblr.com/

「週刊BS-TBS報道部」での放送について
http://www.bs-tbs.co.jp/houdoubu/goodstory/goodstory_20130428.html

表紙の画像:左から樋野晶子さん、江口惠さん、江口裕之さん、諏訪流の第十七代目宗家である田籠善次郎さん、大塚紀子さん、田村民子。2013年4月、御岳の諏訪流鷹匠の拠点にて。

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