鷹匠の道具
Vol. 04

(4)2019年11月 鷹匠の紐「忍縄」の試作を受け取る

試作の忍縄

19/11/14 UP

SNSって、おもしろい横展開をやってくれるなーということがありました。
5月の作戦会議の後。この忍縄(おきなわ)プロジェクトのことを道具ラボのFaceBookページに投稿したところ、意外な人が、このプロジェクトに参入してくれました。
「絹の撚糸なら、、、お力になれるかわかりませんが一度チャレンジしてみましょうか?」
そう、コメントをしてくれたのが和楽器の弦を作る、丸三ハシモト株式会社社長の橋本英宗さんでした。



丸三ハシモト株式会社、社長の橋本英宗さん。手に持っているのは、試作で作ってくださった「忍縄」です。

丸三ハシモト株式会社
http://www.marusan-hashimoto.com/index.php

これまで一緒に取り組んできた組紐職人の江口裕之さんに相談したところ、きっと橋本さんの会社の設備ならいい紐ができますよ、とのことだったので、お言葉に甘えてお願いしてみることにしました。細かいスペックは、江口さんに教えてもらって、田村が伝書鳩をし、大塚さんが使っている紐もお送りして、試作ができあがるのを待ちました。

季節は流れて、10月の末。
橋本さんから、試作ができたと連絡がありました。待ってました!
「最長で作ったのですが、44.4メートルほどの長さになりました」とのこと。「生引きの糸を使っているので通常の生糸よりしっかりしています。丈夫だと思いますよ」というコメントも。どんな仕上がりなのか、気になります。
それで、大塚さんの代理として、田村が滋賀の橋本さんの会社にうかがって、受け取ってくることになりました。



2019年11月上旬。
琵琶湖のほとりを走る電車に乗って、湖のてっぺんあたりに位置する長浜市木之本町の丸三ハシモト株式会社を訪問しました。
この地域は、良質な生糸の産地で、和楽器糸の生産が盛ん。丸三ハシモトは、明治41年に創業し、三味線やお琴などの絃を製造するメーカーとして、伝統の技を守っています。橋本英宗さんのお父様の圭祐さんは、平成30年に無形文化財選定保存技術保持者に認定されています。

  

実は、橋本さんとはこのところ東京文化財研究所の企画で、ときどきお会いする機会があって、互いの近況についても折に触れて、話をしてきました。そんなこともあり、このたびもお忙しいなか、試作を申し出てくださったのだと思います。いろんなご縁がつながっての、このたびの試作完成。東京文化財研究所さんにも感謝しなくてはなりません。

JR北陸本線の木之本駅を出ると、青い空が広がっていました。ススキやコスモスが道ばたで揺れるのどかな風景。ふわふわとしたススキの穂をなでたりしながら、てくてく歩くとすぐに丸三ハシモト株式会社に到着。入り口を入ると、橋本さんが待っていてくれました。

橋本さんが作った忍縄は、ぱりっとした風合いで、きれいに丸められ、紐でとめられていました。



撚りを強くしてほしいという大塚さんからのリクエストもあったので、「かなり、カリカリにしましたよ」と橋本さん。
撚りが強くかかった状態を「カリカリ!」というのが、なんだかおもしろいですよね。このところ、私たちの間ではこの「カリカリ」という言葉が流行中です。

橋本さんからは、どのように考えながらこの紐を作ったのかを細かく説明してもらいました。絹の撚り糸は、作ってからしばらくして乾燥すると、少し細くなるらしく、橋本さんは慣れた手つきで、特殊な計測機器でカシン、カシンと糸をつまんではかりながら、太さを教えてくれました。

鷹匠の文化にもとても興味をもってくださり、こんな風にしたら、もっと伝統を継承しやすくなるのではないか、といろんなアイデアも出してくれました。橋本さんは、伝統をつないでいくためには、技だけでなく、ビジネス的な戦略も大事だと考えています。それを丸三ハシモトで実践していて、このごろは中国など海外の市場にも出ていかれています。それは、伝統文化全体にとっても、見習わなくてはならないところだと感じています。

日々の仕事もきっと忙しいなか、時間をつくって試作をしてくれた橋本さん。お礼を言っても、言っても、足りないくらいなのに、「鷹匠文化のお手伝いができたことに、とても感謝します」と、笑顔で見送ってくれました。ありがたいですね。




帰りの電車の車窓から琵琶湖のほうを見ると、きれいな夕焼けが空を染めていました。モノができあがった瞬間に立ち会えるというのは、とても貴重なこと。試作の忍縄をいれたカバンを膝にのせて、とてもシアワセな気持ちに包まれながら、ガタゴトと電車に揺られて帰りました。
大塚さんに見てもらうのが、とても楽しみです。

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