鷹匠の道具
Vol. 05

(5)2019年12月 鷹匠の道具「忍縄」完成しました

鷹匠の道具 忍縄(おきなわ)

19/12/08 UP

諏訪流の鷹匠が使う「忍縄(おきなわ)」。
素人から見ると、ただの地味な紐なんですが、これがとっても重要な道具で、日常的にもっともよく使う道具のひとつだそうです。
生後2,3ヶ月の幼鳥を訓練するときをはじめ、さまざまなシーンで活躍する縁の下の力持ち的な存在。道具ラボ的にも、こういう地味だけど大事な道具は、すごくしびれます。
今年のお正月の鷹匠イベントで、諏訪流第18代宗家の大塚紀子さんから、この忍縄復元の依頼をいただき、1年間動いてきましたが、ようやく完成しました。

12月7日。この冬一番の冷え込みで、朝からシトシトと雨も降っていました。
凍える手で傘を握りしめながら、鷹匠の大塚紀子さんに会うために、新宿駅そばのレトロな喫茶店に向かいました。大塚さんと引き合わせてくれた、樋野晶子さんも一緒です。

11月に滋賀の丸三ハシモトの橋本英宗さんから受け取った試作の忍縄。これが、試作品にとどまるのか、あるいは完成品となるのか。それは大塚さんが見て、触ってみないと、結果はわかりません。小さな不安も抱えつつ、大塚さんに手渡しました。
こういう場面は、いつもドキドキします。
「わ、いいですね」。
大塚さんは、ペラペラとおしゃべりをするタイプではないのですが、鷹にまつわることになると、はっきり意見を述べます。紐は、ひとまず合格点をもらえたようです。

「切れると、大変です」
忍縄は使っていくと、だんだん撚りも弱くなりやわらかくなってきます。負担がかかりやすい箇所というのがあって、限界に達すると切れてしまう。
犬のリードが切れると、犬は逃げちゃう。それと同じ。事故にもつながります。だから、忍縄は丈夫であることが求められるわけですが、それと同時に扱いやすさも必要になります。

忍縄は、筒のようなものに巻いて、使います。新人の鷹匠さんは、忍縄を巻き取る練習からはじめるのですが、以前の記事でも紹介したように、これが簡単そうに見えて、なかなか難しいのです。
「撚りが強いほうが、丈夫なんですけど、その分、もつれやすくなるんですよね」
からまった糸をほぐそうとしてドツボにはまり、イライラした経験、ありませんか? 新人さんも、途中であきらめて、忍縄にハサミを入れる人もいるとか。

最初のうちは少し辛抱しながら新品忍縄と付き合って、徐々にならしてやる。そうしていくうちに、使いやすい紐になるそうです。そこからして修業のようですよね。
ちなみに、大塚さんは以前、ナイロンの紐を使ったことがあるそうですが、巻くと堅くなるし、太いわりには弱かったとのことです。やっぱり絹が優れているんでしょうね。



この日、大塚さんは今、使っている忍縄、そして未使用の忍縄を持ってきてくれていました。橋本製の忍縄と並べて撮影したのが、上の写真です。
手前の黒い筒に巻かれたものが未使用の忍縄。奥は、今、大塚さんが使っているものです。
紐を見ると、明らかに橋本製が撚りが強い。カリカリ! 触ってみても、やっぱり堅い。
結構、違うけど、大丈夫かな。と心配したのですが、大塚さんは今のところは、あまり気になっていないようでした。

「きれいだし、使うのがもったいないかな」
なんて、大塚さんは言う。気持ちはわかるけど、いえいえ、それは困ります。やっぱり使ってもらわないと、本当にこれでいいのかわかりません。
橋本さんにも、使ってみての感想を伝えたいので、
「2巻あるし、1つは保存して、1つは、がんがん使ってみましょうよ!」
と、使うことをプッシュ。
「そうですよね。それでは、今月中に巻き取って、使ってみることにします」
と、ようやく使う気になってくれました。

その日の夜。大塚さんから、こんなメッセージが届きました。
「固さと曲がり方の柔軟さが使ってみるとどうなるのか、非常に興味があります。早速使わせて頂きます! 新しい撚糸は物によって暴れ方といいますか、巻いた時の縒れ方のひどさにムラがあるような気がすることを思い出しました。今回はもしかしたら縒れないのでは?という予感がしています!」

新しい洋服を買ったときにウキウキするみたいに、大塚さんも新品の忍縄を目の前に置いて楽しく想像をめぐらせているのかもしれません。
今後は、しばらく使ってみてもらって、使用感はどんな具合なのか、次に橋本さんにお願いするとしたら、どういうところを修正してもらいたいかなどをヒアリングしていきたいと思っています。

心意気で試作を引き受けてくれた丸三ハシモト株式会社社長の橋本英宗さん、紐の細かな仕様を丁寧に書き出してくれた組紐職人の江口裕之さん、惠さん、環境保全の専門家という立場で総合的に見守ってくれた北澤哲弥さん、そしていつも細やかな気配りでプロジェクトをフォローしてくれている樋野晶子さんに感謝します。
それから、このプロジェクトに関心をもって読んでくださった、読者のみなさんにも感謝いたします!

お正月には、また浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)で鷹匠の技を披露するイベントがあります。うまくいけば、そのときに橋本製の忍縄がデビューしているかもしれません。

お正月開園「浜離宮庭園で華やかなお正月」
新春の空に鷹が舞う!放鷹術(ほうようじゅつ)の実演
令和2年1月2日・3日 11時・14時(各回60分程度)※雨天中止
開催場所 内堀広場
https://www.tokyo-park.or.jp/announcement/028/detail/45089.html

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