活動こぼれ話

 

2016/09/02

(13) 2017年 春夏の巻


● 2017年4月18日(火)
【広島宮島の桃花祭・神能】
 宮島に渡るフェリーより厳島神社方向を見る
広島県の宮島の厳島神社で毎年、桃花祭・神能(とうかさい・じんのう)という神事が行われています。私は広島で生まれ育ち、宮島には、お正月や夏の花火大会などで幾度となく訪れていますが、この桃花祭・神能には出かけたことがありませんでした。いつかは行ってみたいと思いつつ、なかなか機会がなかったのですが、このたび念願かなって出かけてまいりました。

厳島神社ホームページ
http://www.itsukushimajinja.jp/index.html

 厳島神社 本殿

 厳島神社 祓殿の舞台(ここで能をするわけではありません)

桃花祭御神能は、日にちが決まっていて、毎年4月16日~4月18日の3日間、厳島神社能舞台においてが行われます。朝9時からスタートし、夕方5時ごろまで、ぶっとおしで能や狂言が奉納されます。玄人だけでなく、素人も舞台に出られるのですが、それもまたとてもいい感じです。
厳島神社の入り口で拝観料(300円)を支払えば、能を見るために別料金はかかりません。廻廊を拡張する感じで、仮設の客席が作られるのですが、板敷きにゴザを敷いただけの桟敷席。客席には売店があり、コーヒーや甘酒、名物のあなご弁当などを販売しているので、一日中客席にいることもできます。みんな思い思いにくつろぎながら、ゆったりと能や狂言を見ていて、よい雰囲気でした。能楽堂で緊張感をもって能を見るのとはまた違う、ほのぼのとした楽しみ方というか(長時間でもくたびれない)。

桃花祭御神能番組表(2017)
http://www.miyajima.or.jp/new/?p=3828

 厳島神社 能舞台(右)と仮設の客席(左)
1日目は喜多流、2日目は観世流、3日目は喜多流。私は1日目の午後から拝見しました。この日はお天気がよく、半袖でもいいくらいの気温でした。ところが2日目は、うってかわって大嵐。横殴りの雨で、能舞台もかなり濡れ、客席のゴザも風でめくれあがるわ、水しぶきが飛んでくるわで、大変な荒れようでしたが、それもそれで、なかなか体験できないことと楽しませていただきました。宮島という島には、橋がかかっておらず、フェリーで渡るのですが、2日目はそのフェリーが2時間ほど運休していたそうです。
この能舞台は海の上にあるのですが、潮の加減で海水面の高さに変化があります。このたびは、昼の12時半ごろが満潮だったのですが、「中潮」という時期らしく、廻廊の下ギリギリまで海面がやってくる、ということはありませんでした。宮島に訪れるときは、こうした潮の情報もチェックしておくと、よいと思います。
桃花祭・神能については、あまり詳しい情報が出ていないのですが、チケットを買ったりする必要もありませんし、お客さんの数もそれほど多くないので、座れないということはありません。拝観料300円を払うだけなので、朝、能を見て、いったん外に出てお昼ご飯を食べたり、観光したりして、午後にまた拝観料を払って神社内に入り、能を見るということも十分できます。能舞台と客席の建物などの関係も面白く、また東京や京都の舞台で活躍の一流の能楽師さんも出られるので、舞台自体も見応えがあります。

 雨宿りをする鹿
このたびは、宮島に2泊したのですが、夜は東京と違って空が真っ黒で星がきれいに輝いて感動しましたし、早朝の厳島神社も神々しくてすばらしかったです。自然が豊かで、空気がきれいで、時間もゆったり流れていて本当に癒されました。いつか、広島に戻ってくることがあったら、宮島に住みたい!とさえ思いました。やはり橋がかかっていない、というのがいいのだと思います(フェリーで島を出て、対岸に着いたとたん現実世界に引き戻されました)。

 お土産用の広島針
話は変わりますが、ホテルや駅のお土産売り場で、「広島針」のお土産をよく見かけました(チューリップ株式会社製)。昔は、こんなお土産はありませんでしたので、珍しく感じました。
広島は手縫い針、待針の全国生産量の9割以上を占めているそうです。歌舞伎の衣裳さんや、日本刺繍の方が「針の種類が減ってきている、質のよい針がなくなってきている」と言われていて、伝統芸能の用具としての針がとても気になっています。こうしたお土産コーナーで、広島針が販売されているというのは、売り上げにも大きく貢献するでしょうから、頼もしく感じました。いろんな種類の針が売られていましたが、私は糸通しが楽だという「マジック針」を購入しました。布通りの良さと弾力性に優れているとか。早く使ってみたいです。


● 2017年3月15日(水)
【繊細な和紙の世界】
このところ「和紙」に関わる案件が多くなってきました。和紙というと、産地などによっていろいろ種類があるのは知っていますが、想像以上にスペックの目盛りが細かいということがわかってきました。
たとえば、歌舞伎の小道具で使う傘のための和紙。一般の和傘と異なり、演劇用の和傘は色や厚さなどに細かな指定があります。ちょっとした厚さの違いによって、傘に仕立てたときに太さに影響してきますので、厚さはとても重要です。小道具さんにうかがうと、なかなか思い通りの和紙がないという話でした。
それから、能の謡本(うたいぼん)の表紙用の和紙も入手が困難になっているとききます。希望の種類の和紙はあるものの色数が減っているとのこと。欲しい色の和紙が作られなくなっているため仕方なく別の色に変更しているという話でした。やはり買う人が減れば、商売をする側からすれば、ラインナップを減らそうということになりますよね。
あとは歌舞伎の床山さんが使う元結(もっとい)と呼ばれる和紙でできたこよりのような紐。これは、髪をたばねるときに使うのですが、昔に比べて、切れやすくなっているという話をききます。床山さんは、歯で元結を噛み締めて、ぐいっと引っ張りますので、すごいテンションがかかります。これが仕事の途中でプチンと切れたら、ペースが狂うとのことでした。これは元結の原料の変化によるものではないかと推測しています。

このように、道具、用具に欠かせない和紙の品質が落ちたり、種類が減ったりすることは、見過ごすことのできないものだと感じます。
つい最近、ある和紙職人さんが使っている「和紙の仕様書」を見る機会がありました。これが、非常に細かくてびっくりしました。項目をざっと書き出してみます。
・寸法/厚み/目方(めかた)
・原料(楮・雁皮・三椏・その他)/状態(白皮・撫皮・黒皮・その他)
・煮熟(草木灰・石灰・ソーダ灰・苛性ソーダ) 煮る時間
・灰汁抜き/使用水/塵取り/打解/漂白
・抄紙日/漉手名・経験年数
・漉方法/粘剤/漉簀/乾燥方法/干板の材質
これらについて、全て記入があるのです。すごいですよね。以前、島根にいる和紙職人の友人に、和紙ではがきを作ってもらった事がありますが、こちらの要望を聞いて、それから干して保存していた三椏などの材料を煮るところからスタートしていました(その材料自体も友人が自分の畑で作ったものでした)。なんでもネット通販で買える時代ですが、それは既製服のようなもの。オートクチュールのように、用途に応じて細かく作り分け、最適のものを相手に渡そうとする態度に、改めて頭が下がる思いがします。


● 2017年2月18日(土)
【作り続けていくために】
「竹筬(たけおさ)」という言葉をご存知でしょうか。
織物を織る「織機」の部品の一つで、金属製のものと、竹製のものがあるようです。芭蕉布や宮古上布、八重山上布などは、竹筬でないと作れない。しかし、それを唯一作っていた岐阜の会社が生産を停止してしまったそうです。そこで、有志が「日本竹筬技術保存研究会(通称:竹筬研究会)」なるものを作り、文化庁からの助成を受けながら、技術を受け継いでいます。
かつては専業の仕事をして職人が生きていけていましたが、今はそれでは生計が立てられないジャンルもあります。つまり職業として成り立たないということです。
専業で仕事をしてもらうのが理想形ではありますが、それが難しいなら、他の仕事をしながら(そちらで生計を立てる)、言葉はゆるいですが趣味的にものを作るというスタイルのほうが、うまく技術が継承されることもあるように思います。考え方を柔軟に変化させて、「きちんと技術が継承される方法」を選択してくことが必要であると感じます。 この竹筬研究会の方とは、伝統工芸の危機的課題を共有するある会議で知り合いになったのですが、そのときに私が提示した課題についても気にかけてくださり、情報提供の連絡をくださいました。こうして、横の連携が広がっていくことはとても心強いです。

日本竹筬技術保存研究会
http://takeosa.blog.shinobi.jp/会長の挨拶/


● 2017年2月10日(金)
【芸能のチカラ】
歌舞伎座の大道具さんに広報の仕事などで関わっているので、歌舞伎座の公演は毎月、拝見しています。2017年2月の歌舞伎座公演では、『四千両小判梅葉(しせんりょうこばんのうめのは)』を興味深く拝見しました。

歌舞伎座2017年2月公演の詳細
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/511

四千両は、河竹黙阿弥という有名な作者の作品です。主人公の富蔵を菊五郎丈が演じていますが、とても円熟した演技をみせています。社会規範では、悪人である主人公ですが、菊五郎丈の演技をみていると、とてもまっとうな人間にみえます。今の時代は、ついつい社会規範ばかりに眼をとられ、そこからはずれた人を世間が厳しく追及する空気がありますが、人間とは、そういうものでははかれないものがあるなといつも感じます。それを、こういうお芝居で、さらっとやってのけるところが芸能のすごさだと思います。


● 2017年2月4日(土)
【裏方さんへの応援】
2月の歌舞伎座を観劇した友人が、大道具さんの仕事ぶりにもとても感心されて、「大道具!と声を掛けたくなった」と感想をよせてくれました。私がやっているわけではありませんが、大道具に関わっている者のひとりとして、とてもうれしく感じました。
大道具さんへのかけ声は、大道具の仕事の評価のあらわれ。現場の雰囲気を見ていると、大道具で働いている人達も、そういうのは、すごく喜ぶだろうと思いますが、やっぱり役者さんへの遠慮があると思います。
たぶん、俳優さんが出ていない場面での大道具への声掛けというのが、最も理想的。伝統的に続いているのは『仮名手本忠臣蔵 三段目』での大道具へのかけ声。転換の作業のひとつで舞台の床一面にゴザを敷くのですが、観客の目の前で丸めてあるゴザをさーっと端から端まで投げて敷き詰めるのです。これを「出投げ」といいます。このゴザ、なんと72尺(22m)もあるんです。うまく敷けたときは、大道具への声のかけどころ。「大道具!」「長谷川(昔の大道具の会社名)!」という言葉は、じゃんじゃんかけてもらいたいです(長谷川は、歌舞伎座のみでお願いします)。以前、大道具さんにこの「出投げ」について話を聞いたときに「不慣れな人だと、半分も転がすことができません。一発勝負のため、度胸が必要」と言っていました。三段目が出ることが決まったら、1カ月前から、終演後にみんな稽古をします。私も、このゴザを持たせてもらったことがありますが、まず持ち上げることができませんでした。すごーく短いゴザで、投げる指南もしてもらいましたが、とっても難しい。そして、本番中に、出投げの現場も見学しましたが、お客さんの視線が集まり、非常に緊張していることもわかりました。
話は戻りまして、『忠臣蔵 三段目』でなくても、大道具の仕事がすごくて、思わず声をかけたくなること、ありますよね。このあたりは、大道具さんが俳優さんに対して、申し訳なく思わないタイミングで、観客がいいかけどころをさぐってあげるといいのかなと、感じました。今の若い大道具さんは、そういう観客からの評価を喜ぶと思います。
友人の言葉を聞いて、舞台への声掛けでなくても、裏方さんのお仕事がすばらしいなーと感じたことを、もっとみんなで共有できるしかけが作れたらいいなと改めて感じました。みんなで集まって、「あそこ、すごかったねー」とか、「あの転換、かっこよかった〜」とか、そういう声を対談にして記事にして、みんなにも読んでもらうとか。
既存の慣習を壊さないように、でも、新しい時代のお芝居の楽しみ方を作っていくというのも、ひとつの応援になるなと感じました。
以下は、歌舞伎座の大道具さんのWebに書いた「出投げ」の記事です。

出投げ1
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/odougunodougu/677/
出投げ2
http://kabukizabutai.co.jp/saisin/odougunodougu/725/


● 2017年1月28日(土)
【ゆっくり楽しく衰えていく】
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近所のお寺のお庭。以前はつぼみだったミツマタも少し咲いていました。そして、近くの梅から、甘いよい香りが。春はもうすぐですね。
随分前に新聞記事で読んだのですが、中国語では老眼のことを「花眼」というそうです。歳をとったら細かいところはよく見えなくなりますが、逆に「花」というものの全体を感じ、愛でることができる眼になる、というような意味だったと思います。いい言葉があるなぁと、印象に残りました。私もそんな風に老いていけたらいいなと感じます。


● 2017年1月16日(月)
【情報共有と連携の大切さ】
伝統工芸の道具の素材や技術のこれからについて、さまざまな専門家、職人さんと意見交換をする機会をいただきました。 「芸能のための道具」は「一般の工芸のための道具」と少し異なる部分もありますが、それでも共通することが多く、勉強になりました。課題解決には、多様な連携が必要だと改めて感じました。そして、同じような志をもつ同志と出会えることが、なにより心強いです。
会合では、貴重な意見や情報が多くありましたが、ひとつ深く印象に残った言葉がありました。それは京都の友禅の職人さんの言葉。「昔は、刷毛を10本買うと、10本使えた。でも、今は、10 本買っても使い物になるのは2本くらい。良質な毛は、化粧刷毛にいっている」。つまり、作り手にとっては、友禅のための刷毛よりも、化粧刷毛のほうが儲かる、ということなのでしょう。こうした状況をどう捉えるか、そして、どのようになるのが望ましいのか。自分の考えを立てる際に、バランスを欠いてはならないなと、痛感しました。


● 2017年1月11日(水)
【奥深い櫛の世界】
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昨年(2016年)7月から始動した「奈良の櫛職人さんが遺した理容櫛を、使いたい理容師さんに届けるプロジェクト」。古巣の編集プロダクションの後輩(理容師免許をもつ男子)の多大なる協力のおかげで、8本の櫛が、新たな使い手のもとへと旅立ちました。
今回のプロジェクトで、櫛がいかに用途ごとに細かく作り分けられているか、改めてよく知ることができました。理容の櫛も、驚くほど種類が多いのです。また、べっこうは他の素材に比べて軽い点が良い、など使う人の生の声を聞くことができて、なるほどーと思いました。櫛は素人が使うときは、ほんのわずかの時間ですが、プロの理容師は、結構長い時間手に持ちます。だからごく僅かな重量の差も、使う人にとっては大きな違いに感じるのだと思います。よりよい仕事をするために、よりよい道具を持ちたいという気持ち。櫛を作る人も、使う人も、こだわりがありますね。
手作りで櫛を作る職人さんも、随分と少なくなっていると思います。丁寧に作られた櫛が、理容師さんたちに大切に長く使われることを願います。


● 2017年1月2日(月)
【新しい年をむかえて】
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あけまして、おめでとうございます。
年頭にあたり「伝統芸能の道具ラボ」のはじまりを思い返してみました。そもそもは、ライターとして歌舞伎の裏方さんの取材を重ねるなかで「作れなくなっている道具が増えてきた」「この道具を作れる職人さんが、もう1人しかいない」「道具を作る素材がない」というような声を多く聞くようになったことが、きっかけでした。こんなにすばらしい道具や技術が、世の中から消えようとしている・・・。大きな衝撃でした。そこには「経済」の問題が大きく横たわっています。たしかに需要数は少なく、単純に考えると儲けにはならないのですが、それだけで消えていくことをあきらめてよいのだろうか? 大きな「問い」が立ち上がってきたのです。
2009年ごろから本格始動して約8年。伝統芸能の道具は、いわゆる一般向けの「伝統工芸品」とは異なる、多くの特殊事情があります。ややこしくもあるのですが、大変興味深くもあるなと改めて感じています。その複雑な状況を、推測だけで判断せず、できるだけ現場の声や本音を丁寧に集めて、実効的な支援活動につなげていきたい。難しいことも多くありますが、ねばり強く続けることが大切だと感じています。昨年から動き出している小さなプロジェクトもいくつかあり、能の「羽団扇」の羽根についても、昨年末から環境保全の立場の人達と新しい連携が生まれてきています。 伝統芸能の道具の当事者である、道具を扱っておられる方からは、ぜひ情報を提供いただきたく存じます(本Webサイトにお問い合わせページもございます)。

個人的には、昨年から引き続き、哲学と世界史を深く知っていきたいと思っています。面白いことに、ぐるぐるとめぐって「伝統芸能の道具」に思いがけないヒントを与えてくれることがあって、このところ引きつけられています。

今年もこのHPやFacebookTwitterでささやかな発信を行っていきます。どうぞよろしくお願いいたします。

伝統芸能の道具ラボ 田村民子


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